10年後の前歯のインプラントはどんな状態?長持ちさせるコツ等を解説
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インプラントは、比較的高額な費用がかかる治療法なので、可能な限り長持ちさせたいものです。
例えば、前歯のインプラント治療を行った場合、10年後にはどのような状態にあるのかは気になることかと思います。
ここではそんな10年後の前歯のインプラントの状態や長持ちさせるコツなどをわかりやすく解説します。
インプラントの寿命は10年前後
始めに、インプラントの平均的な寿命についてです。インプラントは、従来のブリッジ・入れ歯と比較すると寿命が長い装置として有名です。適切な方法で手術を行い、治療後のケアをしっかり行っていれば10年前後は持ちます。インプラントの全国的な寿命も10年前後といえるでしょう。
メーカーの保証期間も一般的に10年
標準的なインプラントには、メーカーによる保証期間が設けられています。5年保証や10年保証と呼ばれるもので、多くのメーカーのインプラントには後者が付随します。つまり、メーカーとしてもインプラントは少なくとも10年持つものと考えているのです。これはインプラントの寿命を考える上で、とてもわかりやすい指標となるかと思います。単純に比較することはあまり良くありませんが、家電の保証もそれぞれの製品の寿命に応じた期間を設定していますよね。つまり、製品やサービスの寿命が保証期間を大きく下回るケースは稀といえるのです。
メンテナンスを行えば10年以上持つ
上段でふれたインプラントの寿命は、あくまで目安です。適切なセルフケアと定期的なプロフェッショナルケアを継続していけば、インプラントを10年以上持たせることは難しくありません。インプラントの技術は年々進歩しており、長持ちさせやすくなっているのも事実です。ただし、年に2~3回のメンテナンスを怠ると話は大きく変わります。セルフケアでは取り除けない汚れや気付きにくい故障などを放置することになるため、寿命も徐々に縮まっていきます。ですので、そもそも適切な頻度でメンテナンスを受けていないと、トラブルが起きた際の保証も受けられなくなってしまいますので十分にご注意ください。
40年以上持つ場合もある
インプラント治療にはもうすでに半世紀以上の歴史があります。これまで数えきれないほどの人が失った歯をインプラントで補ってきましたが、その中には治療後からお亡くなりになるまで、40年以上使い続けたケースもあります。若い頃に装着した装置を一生涯使い続けることができるのは、他の治療法ではありえないですよね。インプラントならそれが可能なのです。
前歯のインプラント治療が難しい理由
今回のテーマである「前歯のインプラント」は、奥歯よりも難易度が高くなることが多いです。それは次に挙げる2つの理由からです。
理由①上あごの骨の厚さが一定以上必要のため
私たちのあごは、部位によって厚みが大きく異なります。奥歯の部分はとても分厚いのですが、前歯の部分は比較的薄いです。鏡でチェックするだけでもその違いはわかります。ですから、前歯のインプラント治療を行う前提として、まずは上あごの骨の厚さが一定以上必要となります。上あごの骨の厚みが足りていない場合は、骨を作ったり、人為的に厚みを出したりする外科処置で対応できる場合もありますが、そもそもインプラントが適応外となる可能性も否定できません。
理由②前の歯茎が年齢とともに痩せやすいため
前歯の部分の歯茎は、加齢によって痩せていきます。仮に上あごの骨の厚みが十分にあったとしても、歯茎の状態が悪い場合は、インプラント治療の仕上がりに大きな問題が出てきます。もちろん、歯茎が痩せているケースでも外科処置で改善できる場合もありますが、前歯のインプラント治療の難易度が上がることは間違いありません。
前歯のインプラントの寿命
前歯のインプラント治療は難しいという話を聞くと、奥歯よりも寿命が短くなるように思えますが、実際はそうではありません。前歯のインプラント治療は難易度が高いですが、適切な方法で実施をすれば奥歯のインプラントと同等の寿命が期待できます。つまり、インプラントの寿命というのは、治療した部分によって大きく変わるものではないのです。どちらかというと、治療後のセルフケアや定期的なメンテナンスが寿命を大きく左右します。適切なケアを行えば、前歯も奥歯もインプラントを長持ちさせることは難しくありません。
インプラントの寿命が10年持たない原因
ここまで「インプラントは少なくとも10年は持たせることができますよ」というお話をしてきましたが、10年未満で寿命を迎えるケースも実際に存在しています。それは次に挙げるような原因があるからです。
原因①インプラント周囲炎
インプラントの寿命が10年持たない主な原因は「インプラント周囲炎」です。インプラント周囲炎は歯周病の一種で、インプラントを支えている歯茎や歯槽骨(しそうこつ)に炎症が起こる病気です。インプラント周囲炎は、通常の歯周病よりも進行が早く、顎の骨の破壊がどんどん進んで行きます。その結果、チタン製の人工歯根と歯槽骨との結合が失われ、インプラントが寿命を迎えるのです。
インプラントは見た目も構造も天然歯に限りなく近い装置となっていますが、歯根の表面に歯根膜(しこんまく)が存在していない点を忘れてはいけません。歯根膜は歯や骨に栄養や酸素、免疫細胞を供給する重要な組織なので、それがないインプラントは、細菌感染症である歯周病への抵抗力が低くなっているのです。
原因②喫煙
喫煙もインプラントの寿命を縮めるリスクファクターとして有名です。タバコの煙は全身の健康を害するだけではなく、お口の中にも極めて大きなダメージを与えるのです。具体的には、タバコの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が歯茎および顎の骨への栄養・酸素・免疫細胞の供給を滞らせます。
上段でも説明した通り、インプラントは歯根膜がないことで免疫機能が弱くなっています。そこに追い打ちをかけるような形で喫煙すると、歯周組織への負担が許容範囲を超えてしまいます。しかもタバコには、歯茎の腫れを隠す「マスキング効果」が見られることから、インプラント周囲炎にかかったことに気づきにくいというデメリットも伴うのです。
原因③歯ぎしり・食いしばり
歯をギリギリとこすり合わせる「歯ぎしり」や、強く噛みしめる「食いしばり」の習慣がある人は、インプラントの寿命が10年持たないかもしれません。なぜなら、歯ぎしりや食いしばりは、インプラントの上部構造や人工歯根に多大な負担をかけるからです。上部構造のセラミックが欠ける程度のトラブルであれば、作り直しによって対処できますが、顎骨に炎症が生じたり、人工歯根との結合が失われたりするようなことになれば、致命的な影響が生じます。
原因④他の歯の不調
インプラントの寿命は、その他の歯の状態にも大きく左右されます。例えば、残った歯の状態が悪く、そしゃく機能の一端を担えなくなると、インプラントに大きな負担がかかるようになります。インプラントと噛み合う歯が高すぎる場合も人工歯根にダメージが及びやすくなります。
前歯のインプラントを長持ちさせるコツ
ここからは前歯のインプラントを長持ちさせる方法について考えていきましょう。以下に挙げる4つのコツを知っているだけでも、インプラントは長持ちしやすくなります。
コツ①定期的なメンテナンス
インプラント治療が終わった後は、少なくとも年に2回くらいの頻度でメンテナンスを受ける必要があります。メンテナンスでは、上部構造やアバットメント、人工歯根に何らかの異常が生じていないかをていねいに調べてもらえます。上部構造と人工歯根を連結する装置であるアバットメントの緩みは、深刻なトラブルに発展する可能性があるにもかかわらず、歯科医院でしか改善できません。そうしたトラブルを未然に防ぐためにも、インプラントの定期的なメンテナンスは重要なのです。メンテナンスではその他にもインプラントのクリーニングやブラッシング指導なども受けられます。
コツ②毎日のセルフケア
インプラントを長持ちさせたいのであれば、毎日のセルフケアをしっかり行うことが何より重要です。毎食後に歯磨きを行うことは当然として、インプラントの周りに食べかすや歯垢、歯石などが停滞しないよう、デンタルフロスなどの補助的清掃器具も適宜、活用していきましょう。とくに歯茎とインプラントの境目に汚れがたまると、インプラント周囲炎のリスクが大きく上昇する点にご注意ください。インプラントはとても優れた補綴装置(ほてつそうち)ですが、本物の歯ではないということを忘れないようにしましょう。セルフケアが不十分だと、あっという間に歯周病を発症してしまいます。
コツ③禁煙・減煙
タバコを吸う習慣がある人は、禁煙することをおすすめします。タバコはインプラントの天敵ともいわれるくらい有害なものなので、喫煙習慣を継続することは基本的にNGといえます。これまで吸っていたタバコをいきなりゼロにすることが難しいという人は、減煙だけでもしっかり取り組みましょう。紙タバコを吸っている人はIQOS(アイコス)のような加熱式タバコに変えるだけでもインプラントへの悪影響を減らすことが可能です。
コツ④ナイトガード
歯ぎしりや食いしばりといった悪習癖がある人は、意識的に改善していくことが望ましいです。強いストレスや緊張が生じた場面では、歯を食いしばるのをグッと堪えてください。夜間の歯ぎしりは無意識の症状ですので、自分でコントロールすることは困難です。そのため、歯科医院で治療を受けることをおすすめします。
具体的には、「ナイトガード」というマウスピース型の装置を装着して、歯ぎしりの悪影響を軽減する「スプリント療法」があります。とりわけ前歯のインプラントは強い歯ぎしりがあると、セラミックの上部構造が割れたり、欠けたりするおそれがあります。何となく放置していると、取り返しのつかないトラブルを招くことから、ナイトガードによるスプリント療法を受けた方が良いケースが多いといえます。
インプラント以外の前歯治療
ここまでは、前歯のインプラントは10年後どのような状態にあるのか、また10年以上長持ちさせるコツなどをお伝えしてきました。それを聞いて少し不安に感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。ここではそんなインプラント以外の前歯の治療法についてご説明します。
治療➀ブリッジ
ブリッジは、インプラントと同じ「固定式」の装置です。失った歯を「ポンティック」と呼ばれる人工歯で補います。それだけを聞くとインプラントとまったく同じ装置に思えますが、決定的な違いが2つあります。それはブリッジに人工歯根がない点と残った歯を大きく削らなければならない点です。
まず、ポンティックに関してですが、これは通常、歯茎から浮いた状態で口腔内に設置されます。そのため欠損部の両隣の歯を支えとしなければならないのです。例えば、上の右側の前歯(中切歯)を1本失った場合は、左側の前歯(中切歯)と右側の前歯(側切歯)を支台歯とする必要が出てきます。審美性に大きな影響を与える前歯2本を大きく削って犠牲にしなければならないのです。これは患者様にとって極めて大きなデメリットとなります。
もちろん、ブリッジの場合は外科手術が不要であることから、治療に伴う心身への負担はインプラントよりも少ないです。それでも治療後10年、20年の経過を考えたら、外科手術をしてでもインプラントを埋入した方が良いケースは少なくないのです。
治療②入れ歯
入れ歯は、失った前歯を比較的簡単に治療できる方法です。入れ歯は着脱式の装置であるため、ブリッジにおける支台歯は必要ありません。残った前歯を大きく削らずに済むことは、それだけで大きなメリットとなります。当然、外科手術も不要なので、心身への負担も最小限に抑えられるでしょう。
ただし、前歯の部分入れ歯には、装置が目立ちやすいという致命的な欠点を伴います。部分入れ歯には金属製のクラスプが付随するだけではなく、義歯床(ぎししょう)と呼ばれる歯茎を覆う部分がとても目立ちやすいのです。それに加えて、部分入れ歯は残った歯にクラスプを引っ掛けて固定することから、会話や食事の際にずれる、外れるといったトラブルを招きやすくなっています。そうした治療後のデメリットを考えると、入れ歯が前歯の治療において最善であるといえるケースは限られるといえます。
前歯をインプラントにするメリット
失った前歯の治療法として、ブリッジや入れ歯ではなく、インプラントを選択するのであれば、どのようなメリットが得られるのかも気になることかと思います。前歯のインプラントには実にたくさんのメリットがありますが、ここでは3つに絞ってご紹介します。
メリット①審美性が高い
インプラントは、ブリッジや入れ歯よりも審美性が高い補綴装置(ほてつそうち)です。顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込むため、天然歯とほぼ同じ構造と見た目を手に入れることができるのです。前歯は最も高い審美性が求められる部位でもあるため、補綴装置の見た目が美しいという点は患者様にとって大きなメリットとなります。
前歯1本を失った症例でインプラント治療を実施した場合、治療後はどこに人工歯が入っているのかわからなくなるくらい自然と調和することでしょう。ですから、前歯の治療の審美性を追求するのであれば、入れ歯ではなくインプラントが推奨されます。おそらく、多くの歯科医師も前歯の治療でインプラントを第一に検討することかと思います。
メリット②発音がきれいになる
インプラントには、入れ歯におけるクラスプや義歯床は存在していません。ブリッジのような人工歯が複数連結した設計にもなっていないことから、発音に与える悪影響がほとんどありません。治療後も前歯があった時と同じように発音できます。インプラントによって歯の生え方や位置を修正できれば、治療前より発音がきれいになる場合もあります。
メリット③食べ物を噛みやすくなる
インプラントには顎の骨に根差した人工の歯根があるため、前歯のそしゃく能率をしっかり回復できます。前歯1本を部分入れ歯で治療した場合とは、比較にならないほど噛みやすくなることでしょう。前歯は食べ物を噛み切るという重要な機能を担った歯なので、人工歯根のある装置で治療する意義は極めて大きいです。しっかり噛めるということは、顎の骨の吸収も抑えられます。
前歯のインプラント治療は実績のある歯科医院がおすすめ
上でも述べたように、前歯のインプラント治療は奥歯よりも難易度がやや高いです。そのため高度な治療技術や専門的な知識、豊富な診療実績のある歯科医院に任せた方が賢明といえます。顎の厚みが足りない場合は、骨造成で対応できる歯科医院が望ましいです。
また、前歯のインプラント治療には審美的なセンスも必要となってくることから、そうした分野の治療実績が豊富な歯科医院を探してみてください。治療から10年後も問題なく使えて、美しい見た目も維持できる前歯のインプラントは、どこの歯科医院でも提供できるというものではないのです。
まとめ
今回は、10年後の前歯のインプラントの状態や長持ちさせるコツなどを解説しました。インプラントの寿命は10年前後といわれており、従来法と比較するとかなり長いです。しかもセルフケアとプロフェッショナルケアを両立させることで、15年、20年と寿命を延ばすことも難しくありません。それは前歯だけでなく、奥歯のインプラントにも共通していえることです。
その一方で治療後のケアを怠れば寿命も自ずと短くなります。前歯のインプラントを少しでも長持ちさせたい、できれば一生涯使い続けたいという場合は、本文でもご紹介した「前歯のインプラントを長持ちさせるコツ」を実践してみてください。前歯のインプラント治療を検討中の方はお気軽に当院までご相談ください。どんなご質問にもわかりやすくお答えします。