歯茎が下がる歯肉退縮:原因・引き起こされる症状・治療法を解説
皆さんは「歯肉退縮(しにくたいしゅく)」という現象をご存知でしょうか?
歯を支えている歯茎が何らかの理由で下がる現象で、見た目が悪くなるだけでなく、歯やその周囲にさまざまな症状を引き起こすため注意が必要です。
ここではそんな歯茎が下がる歯肉退縮について、原因や引き起こされる症状、治療法をわかりやすく解説します。
歯肉退縮の原因
歯肉退縮の原因としては、以下に挙げる12の病気や習慣が挙げられます。
原因①歯周病
歯肉退縮の主な原因は歯周病です。歯周病とは、歯ぐきに細菌感染が起こり、炎症反応が生じる病気です。日本人の成人の約8割がかかっているとも言われており、国民病といっても過言ではありません。そんな歯周病では、歯ぐきの破壊が起こり、歯肉が下がっていきます。進行すると顎の骨である歯槽骨(しそうこつ)まで壊されます。
原因②ブラッシングが強すぎる
毎日一所懸命に歯磨きすることは良いのですが、ブラッシング圧が強すぎると、歯ぐきを傷めてしまいます。その結果として、歯肉退縮が起こります。同時に歯の表面を覆っているエナメル質を傷つけることにもなるため、適切な力で歯磨きすることが大切です。
原因③不十分な口内ケア
口内ケアが不十分だと、歯の表面や歯ぐきとの境目に汚れがたまります。具体的には歯垢や歯石ですね。それらが細菌の温床となり、歯ぐきに悪影響をもたらします。
原因④歯ぎしり・食いしばり
歯ぎしりや食いしばりなどの習癖があると、歯と歯ぐきに過剰な負担がかかります。そうすると、歯の破折や亀裂を招くだけでなく、歯ぐきに炎症をもたらし、歯肉退縮を引き起こすのです。ちなみに、歯ぎしりによってかかる力は、100kgを超えることも珍しくありません。
原因⑤歯並びやかみ合わせが悪い
歯並びやかみ合わせに乱れがあると、特定の歯や歯茎に過剰な負担がかかります。そうしたケースでも歯ぐきに炎症反応が生じ、徐々に下がっていってしまいます。
原因⑥矯正治療の影響
歯並びをきれいにする矯正治療においても、歯肉退縮が見られることがあります。適切な矯正力を働かせている限りは歯肉も退縮しないのですが、装置に不具合が生じて過剰な力が歯ぐきに加わると退縮を引き起こします。そんな矯正治療による歯肉退縮は、装置を調整することで改善できます。
原因⑦詰め物や被せ物が合っていない
虫歯治療の後に装着した詰め物・被せ物が合っていないケースも注意が必要です。例えば、被せ物が高すぎると、噛んだ時の力がその歯に集中するため、歯ぐきにダメージが及びやすくなります。あるいは、被せ物の辺縁が歯ぐきに当たることでも歯肉退縮が起こります。いずれにせよ、詰め物・被せ物を早急に調整することが大切です。
原因⑧爪を噛む癖がある
普段から爪を噛んでいると、歯ぐきに大きな負担がかかります。たかが“爪噛み”とは考えず、できるだけ早期に改善するよう努めましょう。成人してからも爪を噛む癖が残っている人は意外に多いものです。
原因➈元から骨、歯茎が薄い
もともと歯ぐきや顎の骨が薄い人は、歯肉退縮が起こりやすくなっています。ちょっとした刺激が加わることで歯ぐきがさがってしまいますので十分注意しましょう。
原因➉加齢
歯肉退縮は加齢が原因になることもあります。歯ぐきもその他の組織・器官と同様、年を重ねるごとに退化したり、委縮したりするものです。お口の中を常に健康に保つことで、加齢による歯肉退縮の速度は遅らせることが可能です。
原因⑪ホルモンバランス
ホルモンバランスの乱れが原因の歯肉退縮としては、妊娠性歯肉炎が有名です。妊娠期は女性ホルモンのバランスが崩れ、唾液の分泌量が低下したり、歯周病菌の活動が活発化したりします。その結果、歯ぐきに炎症が起こって歯肉が退縮します。
原因⑫タバコ
タバコの煙に含まれる一酸化炭素やニコチンは、歯ぐきの血流を悪くし、歯周病のリスクを上昇させます。また、歯ぐき自体も委縮することで、歯肉退縮が促進されます。喫煙は、歯ぐきの慢性的な栄養不足・酸素不足をもたらすものだとお考えください。
歯肉退縮が進行すると起こる症状
歯肉退縮が進行すると、次に挙げるような症状が現れます。
症状①知覚過敏になる
健康な歯は歯根面が歯ぐきに覆われており、冷たいものがしみるようなことはありません。それが歯肉退縮によって歯根面が露出すると、外からの刺激を受けやすい象牙質までむき出しとなるため、知覚過敏の症状が現れます。これは歯肉退縮によって最も起こりやすい症状のひとつです。
症状②ものが挟まりやすくなる
歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなった場合は、歯肉退縮が疑われます。歯ぐきが下がることによって歯間距離が開き、食べ物が詰まりやすくなっているのです。
症状③歯が長くなって老けて見える
健康な人のお口は、歯と歯ぐきのバランスが良く、見た目も若々しく見えます。それが歯肉退縮の進行によって歯ぐきが下がると、歯が長くなったように見えるため、見た目も悪くなります。その状態を“老けた”と感じる人も少なくないでしょう。
症状④虫歯になりやすくなる
歯肉退縮が進行すると、歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなると同時に、歯垢や歯石の沈着も目立つようになります。その結果、虫歯のリスクも上昇します。歯周病ポケットが深くなっているケースでは、歯周病に気を付けなければいけません。
症状⑤歯がぐらぐらする
歯がぐらぐらするような症状が現れたら、いよいよ歯肉退縮も末期の段階です。歯周ポケットもかなり深くなっており、歯ぐきだけではなく、歯を支えている歯槽骨まで破壊されていることを意味します。治療が遅れると、抜歯せざるを得えなくなるため要注意です。
症状⑥歯が削れたり割れたりする
歯ぐきは歯を守る役割を担っています。そんな歯ぐきが下がると、歯根の部分の象牙質が露出して、歯が削れたり、割れたりすることがあります。歯槽骨まで破壊が進むと、歯根そのものが折れる可能性も出てきます。
症状⑦歯が抜ける
歯肉退縮の症状が進行して、顎の骨の吸収も進むと、いよいよ歯が抜け落ちます。日本人が歯を失う原因第1位が歯周病であるのはそのためです。歯周病になると、歯ぐきと顎の骨が破壊され、歯を支えきれなくなるのです。
歯肉退縮が起きている場合の対策
もうすでに歯肉退縮が起きている場合は、次に挙げるような対策をとってください。
自宅で出来ること
まずは、お口の中を清潔に保つことが最重要です。適切な方法で歯ブラシによるブラッシングを実践しましょう。ブラッシング圧が強い人は、力のコントロールが大切です。歯ブラシのかたさも「やわらかめ」を選んでください。歯ぎしりや食いしばりがある人は、それらの習癖を取り除くことが大切です。自分自身ではどうしても改善できない場合は、歯医者さんに相談しましょう。
歯科医院で出来ること
歯科医院では、歯肉退縮の原因に応じて、さまざまな治療法を用意しています。ほぼすべての患者さんに行われるのはブラッシング指導です。また、セルフケアでは取り除けない歯石などは、スケーリングなどで除去します。それでも歯肉の状態が改善されない重症例に対しては、患者さんご自身の粘膜を移植するなどの
いわゆる”歯周外科治療“を実施して、失われた歯ぐきを回復させます。